第3章 飴玉本舗✡摩訶不思議堂
電源を入れるとネットワークには接続されてないし
電話やメールのアイコンはタップしても反応しなかったけど
何故かこれだけは使えたんだ
「カメラだよ、カメラ!」
「これ、カメラなの?
こんなの初めて見た!」
こっちの世界にもカメラはあるのか
「一緒に撮ろう?」
「うん!」
インカメラにすると
『凄い! どうなってるの?』
って潤くんが騒ぐから
「いいから、いいから
ほら、撮るよ!
もっとこっち来て?」
グッと肩を抱き寄せて
― カシャッ ―
二人の“今”を切り取った
「ホントにもう行かなきゃ」
22時はもうそこまで迫ってきてる
「3週間後…必ずまた会えるよね…?」
「会えるよ
会いに来るから」
「約束だよ?」
「うん、約束…」
重ねた唇は
サヨナラのキスなんかじゃなくて
愛しい恋人にまた会いに来る為の約束のキス
「じゃあまたね、潤くん」
「またね、雅紀さん」
小さく手を振る潤くんの左手首に
シルバーブレスが揺れていた
「あっ…」
エレベーターに乗りこんだ瞬間
来た…グルグルバットをしたあとのような
三半規管がおかしくなった感覚…
立ってられなくてエレベーターの真ん中に座り込んだ
誰もいなくて良かったよ
エレベーターがグングン下がっていく
1…2…3…
最上階の1階から、一番下の58階まで
このまま誰も乗り込んできませんように…
28…29…30…
43…44…45…
56…57…
意識が、そこで途絶えた
ピピピピッ ピピピピッ ピピピピッ
んーっ…
聞き慣れた目覚ましの音
あれ…? 俺…
目が覚めると、洋服のまま自分のベッドの上に居て
どうやらこっちの世界に強制的に戻されたあと
そのまま眠ってしまっていたらしかった
「やばっ! 会社!!」
慌てて支度して、家を飛び出した
定時で上がったら、銀行寄って、飴玉屋行って…
あっ、服持って出るの忘れた
潤くんに貸してもらえばいいか!
始業時間5分前
俺はギリギリ、会社の自分のデスクに滑り込んだ