第1章 かりそめの遊艶楼
❦ 櫻井side ❦
金がものを言うこのご時世
事業を成功させた父親を持つ俺は俗に云う金持ちなわけで
「専務、先日の件に関しての資料でございます
お目通しを」
当然地位も上なわけ
「今日終わったらどっか行かない?」
「…いけません…私は社長の秘書ですので」
…愛人だろ
渡された資料を左手、彼女の指の束を右手に取って
"じゃまた今度"と見つめながら甲へキスを落とす
直ぐ様、色白の顔が赤く染まった
ふ…なんだ、俺の事結構好きなんじゃん
座ってる椅子の背凭れに深く背中を沈ませながら
にっこり微笑み、俺から手を解放してやると彼女は逃げるように出ていった
扉が閉まっても聞こえる慌てたヒール音
それにケラケラ笑ってから
1人になるといやでも虚しく感じる、広々とした部屋を見回した
飾ってあるもの、椅子、テーブル
一般人には決して手に入らないような高級品の数々
金さえあればなんでも手に入る
専務っていう役職だって
俺が欲しいと望めばどんな女の愛だって、片っ端から買えてきた
さっきの美人秘書も金目的で父に近付いたのを知ってる
別にいい
それでいいんだけど…酷く退屈に思う
何でもいいからインパクトのある刺激が欲しい…
そう最近は思うようになってつい先日、親戚の集まりでぼやいた
すると場所は分かりにくいが金持ちがこっそり通う"秘密クラブ"があるという情報を貰った
軽い気持ちで聞いてはいたけど、そろそろこの日々にも飽きてきたし
「…行ってみるか」
今日終わったらすぐにでも…
好奇心も後押しし、働いてる社員の手前仕事をしたフリをしながらその時を待った
「…こんなかかるなんて…てかでけぇ」
予想していた時間より大幅に遅れて着いたそこは
三角屋根の塔を列ねたブラウン色のレトロな洋館
会社からというか、街からだってそんな遠くないのに
こんなでかい建物が目立たないのは隠すように生えたツリーのような木のせいだろうか
もっと汚れてもいいような服でくれば…スーツでなんか来なきゃ良かった
「…何か?」
後悔の途中、洋館の扉から若そうな男性が顔を覗かせた
「あ…教えてもらって…」
「申し訳ございません、ここに来たことのある方と一緒でなければ
一見さんはお断りしております」
え…待て待てなにそれ…聞いてた話と違う