第8章 Fate/Zero...? 「過去の未来」が、もたらすもの
しとしとと、小雨が降る中。私を見おろして、一人の少年が、立っていた。
「……なんで、こんなところに赤ん坊?」
――雨生龍之介。
その顔は、未だ私の知る「彼」のものではないけれど、私は知っている。この目の前の少年が、つい先ほど――私が「目覚めた」のと同時に、“記憶”を取り戻したことを、知っている。
返還された“記憶”を思い出すタイミングは、おそらく、人それぞれ。けれど、なんだってよりによって、目の前の少年が、私の「目覚め」と時を同じくして、思い出してしまったのか――“記憶”を持たない少年の「彼」であれば、危険はなかったはずなのに。
彼が思い出した“記憶”――それは、殺人鬼であったころの“記憶”だ。それを得た今、彼は人を殺すことに対して、なんの躊躇さえ抱かないだろう。始まった瞬間に終わるなんて、そんなの、しゃれにもならない。
まずい、まずい、まずい――
私の内心の焦りを知るはずもない龍之介は、差していた傘を無造作に、アスファルトの地面に転がす。そして、おもむろに私に手を伸ばし――なぜか、高い高いをした。