第34章 キューピッドは語る Side:YouⅡ <豊臣秀吉>
私を抱きしめてくれる秀吉さんの顔を、私はまだ間近で見つめることが出来ずにいる。やんわりと頭を支えてくれる手に甘えて、秀吉さんの胸に寄り掛かるように体を預ければ、耳に聞こえてくるのは特別な心音。
膝に置いた手に、秀吉さんの手が重なり合い絡み合う。もう交わす言葉なんてなくて、ただ静かに体を寄せ合って、体温を分け合って。
廊下で泣いてた、あの時間が遠い過去のよう。
今では、この世界にはたった二人。
少しだけ勇気を出して顔を上げたら、逞しくも優しい瞳が細く弧を描いた。
「秀吉さん…」
「ん?」
私の呼びかけに返事をする秀吉さんは、口づけを一つ額に落としてくる。じわり、とそこから熱が広がって。
「私きっと…今が一番幸せかも」
「何言ってんだ」
「え…」
見つめ返す私の体をさらに引き寄せて、秀吉さんの笑みが深くなる。今にも口づけできそうな距離。
「お前と俺は、今からもっとずっと幸せになるんだ。嬉しければ笑い合って、辛ければ語り合って、家族も増やして…一つの未来を作ってく。…だろ?」
「……っはい…」
さも当たり前のように笑う秀吉さんの笑顔が眩しくて、眩しくて、目の前が霞んで見えない。
なんて幸せなんだろう。
私の心は、秀吉さんに囚われて動けない。甘く痺れて、今にも弾けてしまいそう。
「全くお前は…泣き虫だな」
「だって…」
溢れた涙のまま笑う私の目元に口づけて、秀吉さんがやれやれと笑う。
「さとみ、さっきの話の続きだが…こんな日には、どうするか知ってるか?」
「…どうするの?」
問い返した私を笑ってみていた秀吉さんの顔が、ふと真顔になって。色気のある目つきに変わる。
「こんな日には…口づけを」
「…っんん…」
触れては離れ、また口づけては深くなる。熱が唇から伝染するんじゃないかと思う程…溺れていく。
秀吉さんへのこの想いは、きっと色褪せることなんてない。言葉を交わせば、笑い合えば、触れ合えば、その度心がざわめいて、新しい恋になる。
瞳から、一筋熱い涙が零れて、頬を濡らした。
それは、夢にまでみた恋だった。