第7章 雨よ止まないで<石田三成>
暗く重い空から、大粒の雨が降っていた。それはあっという間に本降りとなり、音を立てて容赦なく地面を打ち付ける。
案の定、というべきか。帰るタイミングを間違えた二人は、比較的大きくて立派な木を選んで、雨宿りを余儀なくされていた。
「ごめんね…」
あの時に大人しく帰っていればよかったと、膝を抱えて小さくなる桜。その頭に優しく手を乗せて、三成は微笑む。
「桜様は悪くありません。ですから、そんな悲しい顔をするのはお止めください」
話しながら頭を撫でれば、桜の頭がおずおずと上がる。三成の顔を見てくる桜の様子が小動物のようで、笑みが深くなる。
「それに、桜様とご一緒できるなら、これも悪くありません」
「うん…そうだね」
三成の言葉に、桜も目元を和ませた。と、遠くの空で稲光が光り、少し遅れて雷鳴が轟く。
「ッ…!」
びくりと身体を震わせる桜。咄嗟に三成は、自分の胸の中へ桜を閉じ込める。
「大丈夫です、桜様。私がいますから」
「三成…君…」
まだ落ち着かない様子の桜に、自身の鼓動を聞かせるように抱きしめて、背中を優しくさする。どくん、どくんと音を立てる三成の音を聞いて、強張っていた体の力が徐々に抜けてくる。
「ほら…怖くないでしょう?」
「うん… っん…」
ほっとするような声音に頷いて顔を上げた桜の唇が、三成のそれによって塞がれる。丁寧で、どこまでも優しい三成の口づけに、桜の身体から雷への恐怖が抜けていく。
雷鳴もやみ、雨も小雨へと変わろうとしても、三成は桜を胸に抱いてじっとしていた。自分の腕の中にいる桜からは、雨の様子など見えないだろう。
だから、もう少しだけ、このままで。
終