第19章 温泉旅行へ*光秀エンド*
最初は戯れ。
暇潰しと同義のその行為。
桜に本気の者達に混じって、引っ掻き回してやるのも面白い、と。
名前を呼ぶ。
笑わせる。
触れる。
笑う。
驚くほどの素直さと、危ういほどの無防備さ。純真無垢がそのまま結晶になってしまったようだ。
俺には少し、眩しすぎる。
からかう度に変わる顔は、ずっと見ていても飽きない。たまに見せる笑顔は、まるで褒美のような甘美さをもって、光秀の想いを否応なく大きくさせた。からかいながら触れる指先を、離したくないと思うようになった。
ああ、参ったな。
いつからか、もう分からないが。いつの間にか、引っ掻き回されているのは、光秀の心の方だった。
意地悪。
からかい。
その反応を見てただ楽しんでいるだけだったのに、今はまるで、好いた女についイジワルする子供のよう。
意地の悪い事を言っても、その目は自分を見ているから。困ったように眉を下げて、それでも優しく微笑んで。
桜の笑顔は、浄化の力でもあるらしい。策略を駆使し、敵味方関係なく騙してきた、そのどす黒く染まった心が、洗われていくような気さえする。
たかが一片の白い染料が、闇のような黒に溶け落ちた所で、その黒が薄くなることなど、ありはしないというのに。
…それでも。
その輝くほどの白を黒で侵していくことになっても、そばに置きたい。触れていたい。
俺は、すこぶる身勝手な男らしい。