第16章 温泉旅行へ*2日目昼編*
さすがにあの後、自分で気付いてるだろ。
脇に落としていた書を拾い上げながら、家康はため息をつく。三成が自身の想いに気付いておらず、今日桜に伝えていなかったとしても、自分には関係ない。
秀吉ほど他者の事を考えてやる義理もないし、いかんせん相手は三成だ。露ほども興味はない。一つだけ言えるとするなら、敵が減っていい、ということくらいか。
「俺、そろそろ行きます」
「あ?…ああ、そうか」
三成の後なのが気に食わないが、それは考えないようにして広間を出るため立ち上がる。信長と何やら話をしていた光秀が、家康を見る。
「家康、昼餉までには帰って来い」
「光秀さんには言われたくないです」
「全くだ」
ははは、と笑う秀吉の声を背に、広間を出た。
廊下を歩きながら、家康は二人がどこに居るのか分からないことに気付いた。朝のままなら、書庫にいるのだろう。とりあえず向かってみることにする。
書庫は確か、こっちだな。
廊下を曲がった所で、二人が書庫から出てくる。家康は、角を戻り壁にもたれた。相手が三成でも、邪魔はしない。
「では…桜様」
「…うん」
聞こえる声に、舌打ちをしたくなる。一瞬見えた三成の顔。
あの様子じゃ、想いを伝えたな。
「…だから三成の後は嫌なんだ」
もう少し秀吉の話を聞いていればよかった。