第5章 蒔かぬ種は生えぬ
「おっかえりー。使えそうなのあった?」
扉を開けると、おそ松が顔をあげ真っ先に声をかけてくる。
おそ松と十四松はソファーに座り話しているところだったらしい。
トド松はパソコンに向かい作業しているらしく、画面から目を離さなさい。
『うん、ナイフとか借りた。
私はもう行くけど、皆は後から来る?』
ムーメはスタスタと部屋の中に入っていくと、ソファーの後ろのデスクに置いてある自分のバッグから今背負っているリュックへと私物を詰め替える。
「えー!一緒に行かないんすか!?」
十四松が残念そうな顔をすると、ムーメは『さすがにね』とだけ答える。
バッグの中身を詰め替え終わると、おそ松に向きなおり、話し始める。
『あくまで単身潜入のつもりで行くから。
後から来るにしても見つからないようにして』
「へい、りょーかい」
私もここから少し歩いてからタクシーか何かで行くから、と言いながらリュックを背負いなおす。
準備が終わったらしく、さっさと部屋を出て行こうとするムーメをトド松が呼び止める。
「待って待って。
これ、ムーメちゃん用に準備したから使って欲しいな」
そう言ってトド松は小さな機械を手渡す。
黒くて小さなそれは、俺達が普段使っているインカムだ。
ムーメは一旦受け取るも、困った表情でトド松に返す。
『えっと、ありがたいんだけど、使い方分からない』
「えー、簡単だよ。兄さん達でも使えるんだから」
さりげなく兄弟を馬鹿にして、トド松は説明を始める。
と言っても、マイクイヤホンのオンオフと音量の設定ぐらいしかボタンはない。
最初は戸惑っていたムーメだったが、自分でも使えると判断したのか、ありがとう、と言って受け取った。
「後ね、もし話せない状況になったら困るから、別の通信手段も欲しいなー、なんて」
トド松は自分のポケットからスマホを取り出して、首を傾げる。
この状況でさりげなく連絡先を交換しようとするとは抜け目ない。
ムーメは少し考えた様子だったが、意外にも了承した。
トド松も駄目元で聞いたらしく、その返事に軽く驚いたようだ。
「え、いいの!?やったね!」
『まあ、必要になるかもしれないからね。
…これに送っておいて』