第1章 カードの手が悪くても顔に出すな
今回の仕事も特に問題なく、スムーズに終わった。
仕事道具も回収し、服を着替えて、無駄に豪勢な洋館から退出する。
依頼主への連絡は…いらないだろう。
明日になれば彼のほうにも嫌でも情報が入ってくるはずだ。
ああ、疲れた。
最近やけに仕事が忙しい。
はあ…と一人溜息を落としながら肌寒くなってきた街を歩く。
夕焼けの赤はすでに建物の間に隠れはじめていて、それを追うように、深い青が覆いかぶさろうとしていた。
今回は【人形】のほうだったから、準備も仕事的にも楽だった。
その分報酬は少ないがここのところ仕事続きで参っていたので助かったと言える。
これで【怪物】のほうだったら未だに泣きながら準備に追われていたかもしれない。
次の仕事もすぐとりかからなくてはならない。
確か次も【人形】で、内容は確か…
と、色々考えながら歩いていると、柔らかい何かにぶつかってしまった。
痛みはないが、驚きで小さく声をあげ、反動でよろめきながら一歩さがる。
顔をあげるまでもなく、私がぶつかったのが人であること、自分より背の高い、男性であることがわかった。