第62章 新・忍びのむに
翔之進に語りかける声は、温かくそして有無を言わせないものだった。
黙り込んだ翔之進を残して、潤之介は歩き出した。
無門はどうしていいのかわからず、そこに立ち尽くしていた。
雑賀の鈴木という名前は、無門も聞いたことがある。
なんでも鉄砲衆の中ではその技量は抜きん出ている家だという。
その一族に婿に入ったということは、出世したということなんだろう。
所謂、身分違いの恋というやつだろう。
鳥笛の音が聞こえた。
これは無門と潤之介の合図だ。
弾かれるように駆け出すと、後ろで翔之進が崩れ落ちるのが見えた。
そんなに好きだったら、捨ててしまえばいいのに…
思いながらも、無門はそれができない立場の辛さもわかる気がした。
櫻井の家を背負っていると潤之介は言った。
ということは、翔之進というやつは櫻井の惣領息子なんだろう。
そこまで思って、無門は我に返った。
「何で俺が…」
そんなことまで考えてやる必要などないではないか。
鳥笛の音を頼りに潤之介に追いついた。
「すまなかった。行こう」
潤之介は何も語らなかった。
語らないし、笑わなかった。
それが無門には酷く寂しいものに感じた。