第60章 鈴~リン~2
その日は、本社に用事があった。
乗り慣れない電車に揺られて長い旅だ。
駅を降りると、バスに乗る。
ぎゅうぎゅうと混み合うバスに揺られて、やっと本社に着いた。
「長かったぁ…」
まだ入ったばかりのペーペーだから、本社には数回しか来たことがない。
入館手続きをして、恐る恐る構内を歩いている様はきっと不審者にしか見えないに違いない。
「えっと…スーパーコンピューター棟…」
上司にプリントアウトしてもらったものを見ながらフラフラと歩いた。
なんでも今日、NASAからお客さんが来るとかで。
上司から直々に言われて、資料を手渡しするという任務だ。
それでわざわざ朝早くに、勤務先のある埼玉の山奥から出てきたのだ。
「ああ…緊張する」
詳しいことはなにも聞かされていない。
一体私は誰に資料を渡せばいいのだろう。
行けばわかるとニヤニヤしながら言われ、なんだかわからないまま三鷹に来てしまった。
「ふおっ…」
上ばかり見て歩いていたら、コケてしまった。
「あたたた…」
ころんだ拍子に、パンプスのストラップが切れてしまった。
「あああああ…」
履きなれないものを履いているからだ…
しかしストラップがないと、歩くことも難しい。
「こやつ…どうしてくれよう…」
泣きそうになりながら、しゃがみこんだまま靴とにらめっこした。
「…ぶっ…」
頭上で声がした。
笑われているのである。
「やっぱり面白い…」
「へ?」
顔をあげると、キラキラした人がそこにいた。
「大丈夫?」
その人は手を差し出した。
「…立派になったね。リン」
懐かしいその笑顔は、何も変わっていなかった。
「…悪霊退散…?」
「ぶふぉっ…」
END