第54章 【Desire】おまけ~あにゃさまリクエスト
北へ向かった
俺達は無言で電車に揺られていた。
何度も乗り換えて…もうどこかわからないローカル線の無人駅のホームに電車が滑り込む。
停車すると、大野は窓の外をじっとみた。
「先生…」
「ん…?」
「ごめんね。こんなところまで付き合わせて」
「え?」
発車のベルが鳴り響く中、突然、大野は立ち上がって駆け出した。
「ちょっ…待てよっ…」
慌てて後を追いかけたが、大野が電車を降りた瞬間、ドアは閉まった。
「…なにしてんだっ…」
慌ててドアに張り付くと、大野は泣いていた。
電車が走り出す。
景色が流れていく―――
すきだよ
大野の口が動いた
俺は、まだ伝えていない
必死に、大野を探した。
次の駅で降りて、急いで引き返した。
駅の周りで、人に聞いてなんとか行方を探した。
日が暮れても、手がかりがなくなっても俺は走った。
人気のない真っ暗な道を走っていると、ぽつんと信号機が見えた。
その先には大きな橋が見えた。
車通りのない道をまっすぐに進むと、欄干にもたれかかって川面を見つめる大野が居た。
「智っ…」
驚いて振り返った大野は、俺を見て逃げ出した。
「待てよっ…」
「こないでえっ…」
なんとか追いついて捕まえると、抱き寄せた。
「馬鹿…」
「だめだよお…一人で…」
「智っ…」
びくっと俺を見上げた泣き顔に、言ってやった。
「好きだ」
言っては…いけないと思っていた…
どんなに家庭がめちゃくちゃでも、こいつはまだ若い。
未来がある。
だから、俺なんかがこいつに痕跡を残しちゃいけない。
始まりは不純だったけど、一時だけの慰めでいいと思った。
俺みたいな大人になるな…なってはいけない
そう思って突き放そうとした。
けど…できなかったんだ…
誰よりも…大野よりも俺が
大野を求めていた
「好きだ…」
「…先生…」
さらさらと川の流れる音がする。
夜空には北極星が俺たちを見下ろしていた。
この瞬間を…俺は忘れない
「一緒に生きよう…?智…」
見上げた頬に、涙が溢れた
END