第50章 【Desire】22 チャコさまリクエスト
深夜、カツカツと革靴の音が聞こえる。
ここは、二宮の使用人が住まう棟。
母屋は廊下に絨毯を敷いてあるが、使用人棟にはそんなものはない。
だから外を誰かが歩いていると、すぐわかるのだ。
脱力したまま、ベッドに寝ていると部屋をノックする音が聞こえた。
「…はい」
「櫻井、私だ。入るぞ」
ドアを開けて入ってきたのは、この家の家令である松本さんだった。
「具合は…どうだ?」
「すいません…」
「いい、寝ていろ」
起き上がろうとした身体をマットレスに押し戻された。
「熱が下がらないんだから、しょうがないだろう?」
「すみません…」
「医者はなんと言っていた」
「過労であろうと…最近、バタバタと忙しかったので、疲労が溜まりに溜まっているのだろうと…」
「そうか…和也様の葬儀から、休む間もなかったからな…」
「でもそれは、旦那様も松本さんも同じことです。私だけがこうやって臥せっているのは…」
「…いい…おまえは和也様の執事だったのだから…」
そっと胸の上に乗せていた手に、手を重ねられた。
「気持ちは痛いほどわかる…」
ふっと暗い笑みを見せると、私の手を布団の中に入れてしまった。
「熱が下がるまでは、母屋にくることは許さない。いいな」