第30章 【Desire】2 すぃさまリクエスト
吾輩は櫻井である。
名前は翔。
今日もお隣の相葉家の雅紀を誂おうと、破れた竹垣の間から顔を出した。
「にゃふ~」
雅紀~と呼んでみるが、座敷には猫の気配はない。
「あら、翔ちゃん。雅紀ね、寝てるわよ」
相葉家の娘ごである、すぃちゃんが吾輩の身体を抱き上げた。
「にゃふ…」
すぃちゃんが本名なのかはわからぬが、このあたりの子供にそう呼ばれておるので、吾輩もこの娘ごをそう呼んでいる。
「雅紀~。翔ちゃんが遊びに来たよ~」
草履を脱いで座敷に上がると、猫ちぐらを揺らした。
「雅紀?」
返事がないので、すぃちゃんは我輩を抱きしめたまま猫ちぐらをひっくり返した。
どさりと落ちてきた雅紀は、ぴくりとも動かない。
「…雅紀?どうしたの?」
すぃちゃんが身体を撫でても、無反応である。
「あらっ…熱があるわ…」
そういうと、娘ごは我輩を放り出して座敷を出ていってしまった。
「にゃふ…?」
雅紀をよく見ると、荒い息を吐き出して苦しげである。
「にゃふふ…」
いかがしたものかと思案したが、いい案が浮かばない。
しょうがないので、雅紀の身体を舐めてやった。
「にゃにゃ…」
翔ちゃん…と雅紀が目をあけると、少し潤んでいる。
「にゃふ?」
どこか苦しいところはないかと聞いてみるが、雅紀は目を閉じて顔を横に振る。
これは、重症である。