第10章 離さない、あのね。
そんな両親が、もう会社を支えるのが疲れたと、ハヤトに一文寺を託す為に会いに来て欲しいと言われたと語る。
どうして、今更。
ハヤトはその事を話している時も、お世辞でも楽しそうな顔はしていない。寧ろ憎しみに飲み込まれそうである。
「すぐ戻るから、それまでこの家は牡丹に任せたよ。」
「わかりました。気をつけてください。」
牡丹は玄関でハヤトを見送る。久しぶりに外の空気に触れたと思った。太陽の光が眩しく目を瞑った途端に、唇に何かが触れる。
「行ってくるよ!」
「いってらっしゃいませ!」
ハヤトに軽いキスをされる。
リムジンに乗ると、敷地の外に繋がる木々に向かって走り出す。
牡丹の心は不思議な気持ちで溢れている。
この先、待ち受けていることを何も知らずに、胸の高鳴りを一つの感情だと思い始めていた。