第1章 出逢い
ー雅紀sideー
「それでは…乾杯~!」
会場に響く乾杯の音頭。
俺はそれに合わせてグラスを持った手を上げる。
上司の送別会。
人柄がよく、頼り甲斐のあった部長の定年退職の送別会には大勢の人数が集まっていた。
「部長。今まで本当にお世話になりました」
部長「相葉くん。ありがとう」
お世話になった部長に挨拶した後は同期の奴らや同じ部署の人達と談笑しながら久し振りの飲み会を楽しんだ。
数時間経っただろうか。
風に当たり酔いを覚まそうと俺は会場の居酒屋を出て駐車場を出た。
「あれ…?」
駐車場の入口で誰かが何処かに電話を掛けていた。
暗がりで直ぐには分からなかったがその後ろ姿は…。
「太一先輩…?」
国分「ん?おー相葉」
同じ部署の先輩・国分太一先輩だった。
電話を切った後、太一先輩は振り返り、俺に笑顔を向けた。
「どうしたんですか?」
国分「うんちょっと…。相葉、俺ちょっと抜けるから」
「え?何でですか」
国分「ちょっと行きたいとこあってさ。最近ハマっちゃって…」
そう言えば…。
いつも部署のムードメーカーで面倒見も付き合いも良い太一先輩が最近は断る事が増えてきた。
「そうですか…」
あまり詮索しない方が良いのかな。
そう思った俺は頷いて中に戻ろうとした。
太一「………お前も来る?」
「え?」
太一「一緒に来いよ。教えてやるよ。楽しい遊び」
「で、でも2人抜けると…」
困った俺は返答に困り会場と太一先輩を交互に見つめた。
太一「嫌なら良いよ。じゃあまた明日な」
あっさり引き下がった太一先輩は俺に手を振り、暗がりに消えていった。
中に戻るか…太一先輩か…。
俺は歩き始めた。
「太一先輩待って!」
数メートル先を歩く先輩の背中を追い掛けた。
その先に運命の出逢いが待っているとは知らずに。