第17章 Pearl
「和也、ケーキだよ」
クッションを抱えたまま床に座り、和也は宙を見つめている。
「ほら、早く」
潤が和也をソファに座らせる。
「ローソク、ふーってしてもいいよ」
そっと和也の手からクッションを取る。
和也は微笑んで、首を振る。
「しょー…」
また宙を見上げる。
灯りを落とした室内は、ロウソクの灯りで仄暗い。
和也の目線の先に、影が揺らめいた気がした。
「ほ、ほら。ロウソク消そうか」
俺は慌ててロウソクを吹き消した。
一瞬部屋が真っ暗になった。
潤が部屋の電気を点ける。
「あれ…?」
和也が満面の笑みを湛えていた。
「どうしたの?和也」
「う…」
首を振ると、また宙を見る。
手を伸ばすと、声を上げて笑う。
「和也…」
「こんなに笑うの、初めてだな…」
二人で和也をじっと見守った。
やがて、電池が切れるように和也は眠ってしまう。
テーブルを片付けながら、潤がぽつりと呟いた。
「翔が…来てたのかな…?」
窓の外には、チラチラと白い雪。
天気予報では降らないって言ってたのに。
「…かもね…雪だ…」
窓辺に佇むと、外を眺めた。
翔。
お前が居なくなって、初めてのクリスマスだよ。
和也は…まだ戻ってこないよ。
心は、お前が連れて行っちゃったんだな…
「智、風邪ひくよ」
「うん…」
潤が、和也を抱き上げる。
「あれ…コイツ、また軽くなったんじゃね?」
「そっか…」
翔…
早く…
「和也、笑ってる」
潤が嬉しそうに、和也の顔を覗きこむ。
その顔は、とても幸せそうで…
「寝かせてやろうよ」
「うん」
寝室のベッドに横たえると、そっとドアを閉じた。
メリークリスマス、和也
もうすぐ、迎えにいくよ