第1章 ♥オイラは美術教師
職員室のドアを前に、俺は銀縁の眼鏡を、指でクイッと上げ、背筋をピンと伸ばした。
緩んだネクタイを締め直し、制服のブレザーの埃を払う。
ノックをしてドアを開けると、
「失礼します」
と、礼儀正しく会釈をして、大野先生の机に向かう。
「大野先生、櫻井です」
声をかけるが、返事はない。
それもその筈、大野先生は机に突っ伏して居眠りをしていた。
なんて愛らしい寝顔なんだ(〃ω〃)
おっと、見蕩れている場合じゃない。
ニヤけそうになる顔を、キュッと引き締めた。
「大野先生、起きて下さい?」
肩にそっと手を触れる。
たったそれだけのことなのに、heartbeatが煩くて仕方ない。
「…ん? …あぁ、えっと…誰だっけ?」
「2組の櫻井です」
自分で呼び出しといて、顔も覚えてないって、どんなんだよ。
俺は心の中で舌打ちをした。
「…櫻井? おぉ、櫻井、待ってたよ」
ホントかよ…
「んじゃ、美術室行こっか」
大野先生は一つ大きく伸びをして、ノロノロ立ち上がると、机の上に放ったままの美術室の鍵を手にした。
指でクルクル回しながら、猫背で歩く大野先生の後を付いて歩く。
こんな爺さんみたいな人なのに、どうして可愛いと思えるのか…
前を歩く背中を見つめていると、俺の頭の中は?マークで溢れた。