第15章 1番大切な人
「………」
綾香「………」
ベンチに腰掛けたまま、俺は何も話せずにいた。
翔『男見せろよ。相葉雅紀』
どうやって男見せろって言うんだよ…。
「………あのさ…」
沈黙に限界を感じ、俺は重い口を開いた。
「………その…この間はごめん…声掛けてくれたのに逃げちゃって…」
綾香「ううん…」
「………元気してた?」
綾香「うん。マーくんは?」
「………元気だよ」
綾香「そう。良かった」
「あの…」
綾香「ん?」
「こんな時間まで…残らせちゃってごめんね」
綾香「大丈夫…マーくんに逢いたかったから…」
「………そんな事言ったら…旦那さん悲しむよ」
綾香「え?旦那さん?」
キョトンとした顔で俺を見つめるあやちゃん。
「え…だってあの時あやちゃん…子供抱っこしてたから結婚したんだと…まさかシングルマザー?」
綾香「………ふふっ…」
「え」
………何で笑うんだよ…。
綾香「あれはお姉ちゃんの子供。一緒に買い物に来てたのよ。隣に居たんだけど気付かなかった?」
「………ごめん…全然…」
ホッと胸を撫で下ろす自分が居た。
綾香「気にしてくれたの…?」
「あ、いや…」
するとあやちゃんの手が…俺の手に重なった。
「………あやちゃん…」
綾香「それだったら…嬉しい」
「………」
綾香「マーくん…今更って言われても…仕方ないのは分かってる。でも…私…ずっとマーくんの事…忘れられなかった…」
「………え?」
だって…何も言わずに捨てたのは…。
綾香「………マーくんのファンの子達に言われたの。ファンを裏切った相葉くんを許さないって…殺して私も死ぬって…だから…」
「嘘…だろ?」
綾香「だから…私の事忘れて欲しかった…でも…私が忘れられなくて…マーくん以上の人なんて…何処にも…」
「………あやちゃん…」
気付けばいつの間にか…あやちゃんを強く抱き締めていた。