第5章 代わり 仏
「っちょ、ローナちゃん…落ち着いてっ…て、」
冬の夜。こっちは相変わらずの雨。それでもこの髭はあいつを求めてここに足を運んだ。
でもお目当てのあいつは、とっくに別の国にでかけている。
それでもこいつは、従順に帰りを待っている。
そんな姿を見てられなくて、とりあえずキスしてやった。
だって、好きなヤツが悲しそうな顔してたらこっちまで悲しくなるだろ。
何度も何度も口の角度を変えて濃厚なキスをしていると、いい加減にやめて欲しいのか、俺の口を手で塞いだ。
「なにすんだよ」
「なっ、なにって…それこっちのセリフ…急に何?何のつもり?何?」
若干不満そうなのが気に食わない。
「可哀想だと思ってよ、何日も兄貴の帰りを待ってんのに当の本人は別んとこで遊びまくってるんだぜ?
だからその間、俺がお前の暇つぶしになってやるよ」
違う、ホントはそんなんじゃない。
何でいつもこう素直に慣れないんだ。普通に「お前の悲しそうな顔なんて見たくない、好き」って。言えよ、馬鹿。
ほんっと、自分のこういう所…大嫌い。
自分で言った言葉に罪悪感を覚えて、逃げるようにフランの胸板に顔を埋める。
子供の頃とは違ったアダルトで官能的な匂いに身体がジンジンしてくる。
3個もボタンを開けているのをいい事に、隙間から手をするりと入れると叩かれた。
「こら、そういうのは好きな人にやりなさい」
「あ?」
「あ?じゃないの。女の子がそんな言葉づかいしちゃダメでしょ」
女扱いすんじゃねえ。
それは冗談なのか、本気なのか。顔からだと何も分からない。
もしこいつが冗談で言っても、本気で言っても、俺が好きな奴はお前だし、だからこうして振り向いてくれるようにスキンシップしてんのに。
手つきだってなんだって、あいつに似てるだろ?兄弟だから。
「…フラン、」
あいつにだけ呼ぶことを許されたあだ名で呼んで、精一杯キスをして、噛み付いて。
それでも尚、フランはこっちを見てくれていない。
いつもの、少し冷たい目で笑いながら俺の頭を撫でるだけ。
「フラン、」
「……ローナちゃんはまだまだ子供だからね、そういうのはもう少し大人になってからだよ」
その言葉が、異様に鈍く胸に刺さる。
フランだって、わかってそんな事言ってる。