第3章 不幸少女
私はまた、平凡な日常を取り戻した。
あれから黒川さんに連絡することも、彼から連絡が来ることもなかった。
ある日、仕事が終わり更衣室で着替えていると、パートのおばさん同士の会話が耳に入った。
「社員さんから聞いたんだけど、最近、経営苦しいみたいね。かなりの人数がクビにされるかもしれないって。」
「えー、嘘でしょー?」
その話を聞き、内心焦った。
この工場は、何かと古株の人を優遇する傾向がある。
私は入社して3年目。
この工場では新米の方だ。
この話が本当なら、クビにされる確率が高い。
職を失ったら生活していけない。
貯金も無いし、今更受け入れてくれる親戚もいないだろう。
新しい仕事を探すことも考えなければ…やっと平凡な日常が戻ってきたというのに、また1つ不安要素ができてしまった。
アパートに帰ると、黒川さんの車が停まっていた。
「え…どうして…。」
私に気付いた黒川さんが車から降りて歩み寄ってきた。
「こんばんは…。」
軽く頭を下げると、黒川さんはあの胡散臭い笑みを浮かべた。
「どうしたの?」
「いや、あれから1ヶ月経ったし、どうしてるかなーと思って。」
「特に変わらないよ。」
「なら良かったよ。なぁ、これから飯食いに行かない?」
意外過ぎる誘いに驚きを隠しきれなかった。
「え…なんで私と?」
「別に理由はないけど?まぁお前に拒否権はないけどねー。」
そう言って黒川さんは私の腕を掴んで助手席に押し込んだ。
「え、ちょっと…。」
戸惑う私を無視して、黒川さんは車を発車させた。