第3章 【雪日和】手塚国光
「璃音・・・!」
「・・・国光、お疲れ様・・・」
プロ転向を目指しドイツに旅立つため、Uー17合宿を途中でリタイアする国光を、合宿所の門の前で出迎える。
「なぜわかった・・・?」
「昨日、大和部長から連絡をもらったの・・・、国光の日本での最後の試合になるだろうからって・・・」
予想外の私の出迎えに驚きと困惑の表情を浮かばせる彼に、でも、なんか入りづらくて・・・そう髪を耳にかけながらそっと微笑むと、すまないと国光が申し訳なさそうに謝る。
「ううん、最初からわかっていたことだから・・・」
「それでも、だいぶ予定を早めてしまった・・・」
律儀に頭を下げる国光らしい行動に、いいの、そう首を横に振りそっと寄り添う。
国光の夢を応援したい。
信じる道を進んでほしい。
その気持ちは決して嘘ではないけれど、それでも寂しい気持ちは抑えきれない。
私の髪を撫でる国光の胸に顔を埋めてにじむ涙を隠すと、空から白い雪が舞い落ちる。
「・・・雪・・・」
「ああ・・・」
二人で空を見上げると、舞い落ちる粉雪が国光と私の髪や肩に降り積もる。
このままずっと降り続ければいい。
合宿所も木々も大地も、すべてを白く染めればいい。
真っ白ななにもない空間に、私と国光を閉じ込めてしまえばいい。
そんな白く輝く雪とは正反対の感情が私の心を支配する。
「手塚ぁぁぁーーー!!!」
その声にハッとして我に返る。
国光の視線の先を一緒に眺める。
・・・跡部くん・・・
そうだよね・・・
こんなんじゃダメだよね・・・
キュッと下唇を噛むと、どす黒い感情を真っ白な雪で隠して、私はまた笑顔を作る。
「すみません、お客さん、雪でおくれてしまって・・・」
「いえ、お陰で友人からの大切なエールを受け取ることができました。」
バスの座席に座り寄り添う私達は、しっかりと絡めた指に力を込める。
無言で窓の外を眺める国光の表情を見ることが出来ず、触れ合う2人の膝をただじっと見つめる。
白い粉雪はまだ降り続いていた―――
【雪日和】手塚国光