第9章 【水たまりに映るモノ日和】不二周助
「結婚、おめでとうー!」
「お幸せに~♪」
雲の隙間から日の光が差し込み、長く降り続いた季節柄の雨が息を潜める。
教会を彩る紫陽花の雫に反射する光が、主役の2人をより美しく輝かせる。
そんな2人を祝福する大勢の友人達から少し離れて、キミは1人そっとたたずむ。
「・・・小宮山さん・・・」
後ろから静かにその名前を呼ぶと、キミの肩がビクッと跳ねて、それから小刻みに震えだす。
そっと歩み寄りその細く頼りない身体を抱きしめると、キミはただ静かに嗚咽を漏らした。
泣かないで・・・
僕がキミを幸せにするから・・・
そんな想いを声にしたら、キミを困らせるだけだろうか・・・
肩に手を添えて振り向かせると、その涙でいっぱいの瞳に映る僕をみつめる。
瞳の中で揺れる僕はとても情けない顔をしていて、キミがそっと瞳を閉じた瞬間、頬を伝って零れ落ちた。
引き寄せられるようにその唇に僕のそれを重ねる。
どうか拒まないで・・・
キミの悲しみをわかってあげられるのは僕だけだから・・・
キミの瞳に映る僕を見つめる。
僕の姿に彼を重ねるキミを想いながら・・・
「璃音ー!不二くーん!そんな遠くにいないでこっちに来てよー!」
「うん、今いくから!」
彼の隣で無邪気に笑う親友の声に、キミは慌てて涙を拭い振り返る。
平気な振りをして2人の元に向かうキミの背中を、僕はただ黙って見つめ続ける。
僕の瞳に映るのはいつもキミだけ・・・
キミの瞳に映るのはいつも彼だけ・・・
決して僕は映らない―――
【水たまりに映るモノ日和】不二周助