第27章 ウェディングプランナー
5月。
晴れ渡る土曜の朝。
『…あぁっ、やだ、もうっ!』
洗面所で髭をそっていた鉄朗さんが
顔を出す。
『どした?』
『結ちゃんが、ご飯で遊んで食べてくれない!』
『ごめんごめん、俺がやるわ。
すぐ行くからちょっと待って。』
…今日は、私の仕事復帰の日。
そう、あの"ご指名"で頂いた現場。
洗面所から出てきた鉄朗さんは、
娘…ゆい…の世話を代わってくれた。
今度は私が洗面所へ。
久々の黒いパンツスーツに
久々の社会人メイク。
緊張と同じくらい、ワクワクしてる。
今回の仕事から、
私は研磨さんの会社"プリンヘッド"所属の
ウェディングアドバイザーとして
結婚式の仕事に携わることになった。
また夜久君や花巻さんたちと
仕事を出来る日が来たことが
本当に本当に、嬉しくて。
『鉄朗さん、結、行ってきます。』
玄関から声をかけると、
娘を抱っこして見送りに来てくれる。
『結、ママの新しい出発だ。
ママは仕事してる時、ホントにかっこいいぞー。
応援しよう、な!』
…私の仕事復帰を誰より喜び、
支えてくれた人。
『結のことは心配いらないから。
復帰第一弾、いい仕事、してこいよ!』
私を一番、理解してくれる人。
『研磨と夜っ久んによろしくな。
…何時頃、行こうか?』
『3時半まで披露宴だから…4時半なら大丈夫。
大将に結を会わせるの、初めてだもんね。』
そう。
私を指名してくれたのは、
大田将一さん。
あの"おでん屋 大将"の、大将。
…とはいっても、
大将の四度目の結婚、というわけではなく(笑)
今日の新婦が大将の最初の結婚の時の娘さんで
大将は今日、"花嫁の父"なのだ。
『大将、泣くかな?』
『そりゃ、泣くだろー。
別れて何年もたってるのに、
"一緒にヴァージンロード歩きたい"
なんて、娘に言われたらさぁ…
俺、結の結婚式考えたら、今から泣きそ…』
鉄朗さん、ホントにいい夫で、いいパパ。
…ちょっと甘すぎる気もするけどね(笑)
『じゃ、行ってきます!』
『あぁ、いってらっしゃい。』
玄関ドアを出ていこうとした時、
『アキ、』
後ろから呼び止められる。
…糸屑でも、ついてた?
振り返ると
『すっげー、いい顔してるよ。
自信もって、行ってこい。』
…鉄朗さん。
私、あなたと結婚できて、
本当に幸せ!