第27章 ウェディングプランナー
寒くなってきたというのに、
アキが娘を抱えて
家の外で俺の帰宅を待っていた。
今まで1度も、そんなことはない。
『どうした?』
『相談したいことがあって。』
顔つきが、いつもと違う。
…あ。久しぶりに見る、この顔。
アキが、何かを決めたときの顔。
なんだかわからないけど、
"俺は受け止める立場だな"
ということだけは、理解できた。
飯を食いながら、話を聞く。
アキにぜひ、という仕事の話があること。
引き受けたいけど、
披露宴までに何度か上京しないといけないこと。
…その時、娘をどうするべきか。
会社員ではないから、
交通費や宿泊費などは
手出しになるかもしれないこと。
相談、とは言っているものの
アキの頭に"断る"という選択肢は
おそらく、ない。
本当に相談をしたいのは、
問題をどうクリアするか、だろ?
『もちろん、やれよ。』
いずれ、こんな日が来ると思ってた。
アキが結婚式のプロであるように
俺は、数字のプロで…
アキのプロでもある(笑)
やっと俺の出番が来た、というのが
率直な気持ちなわけで。
すぐに、数本、電話をかける。
研磨と夜っ久んには、前々から頼んでた。
こんな日が来たら、
アキをプリンヘッドの所属にして
プリンヘッド経由で仕事をさせてもらうこと。
マージンとってもらうかわりに、
交通費や宿泊費は経費で出してもらう。
打ち合わせには、Webも活用。
娘のことは、
俺が全面参加するのはもちろんだけど、
いざという時は
両方の実家にも協力してもらえるように。
…子育ては、みんなで。頼れる人には頼る。
いつか、同じことで困ってる人に
自分達がしてもらって嬉しかったことを
お返しすればいいと思うから。
『甘える』んじゃなくて、『学ぶ』んだ。
『OK、懸案事項も全部クリアだ。
何も心配いらねーから、気兼ねなくやれよ。
そのかわり、家庭を言い訳にすんなよー。
"元 敏腕プランナー"…なんて
過去形で言われないようにな。』
…いつか言いたかったこの言葉。
やっと言える日がきて、心から嬉しい。
こうして
"俺の奥さん"が
"ウェディングプランナー"として
動き始めたから…かどうかはわからないけど
次の春、またアキは、流れを引き寄せる。