第27章 ウェディングプランナー
あの日、あんなに
いろんなことがあったというのに、
翌日からはまた、
何一つかわることなく
普通の毎日の連続だった。
会社にいけば
三つ左隣りにトーコの旦那がいて、
仕事は途切れることなく進み、
たまには仕事終わりに仲間と飲みに行って、
家では、気楽な独り暮らし。
時々、一人で大将のところで晩飯がてら晩酌。
新しい女は、今のところ、いないし、
彼女からの連絡も、ないまま。
そんな普通の毎日の連続…が
大きく動いたのは、
“あの約束”がきっかけだった。
その日は会社から真っ直ぐ家に帰り、
風呂入って飯食って、なんとなく
ソファでニュースを見ていたから…
10時過ぎ、だったと思う。
スマホが鳴った。
画面に、彼女の名前。
一瞬、驚く。
そして、出来るだけ普通の声を出した。
『おう、どうした?』
呼吸ひとつ分の空白のあと、
彼女の声がする。
『こんな時間にすみません、早瀬です。
黒尾さん…あの約束、覚えてますか?』
もちろん。
『当たり前だろ。どうした?なんか、あった?』
『…ぅん、なんかあった、というより
なんもない、というか…』
状況がわからないから
なんとなく、こう言ってみた。
『…明日、飯でも食い行くか?』
電話の向こう。
電車の音。
その間で途切れ途切れに聞こえた
彼女の言葉。
?!
『…そこで、待ってろ。待ってろよ?!
勝手に帰ったりしたら、許さねぇぞ!』
ジャージのまま、
サンダルをつっかけて、家を飛び出した。
電話の向こうから聞こえた音。
毎日聞いてる、
二屋恩駅のホームの音だった。
駅の雑音の間で
途切れ途切れにしか聞こえなかったけど
彼女、確かに、こう言った。
『明日まで待てない…って言ったら
ワガママ、ですか?』
すぐそこまで、来てる。
彼女の性格からしたら、それは
『今すぐ、会いたい』
…そう言ってるのと同じこと。
あの、強がりで甘え下手な彼女が。
すぐ、行くから。
なんだかわかんねぇけど、
すぐ行くから。
待ってろ。
…駅まで、走った。
思ってたより遠く感じたけど、
一度も立ち止まらずに。
目の前に落ちてきた花びらに
思わず手を伸ばすみたいに、
見逃さないように、
見失わないように、と、
そこだけを目掛けて、
走った。