第27章 ウェディングプランナー
翌日、夜久君に
『すぐ戻るから』と声をかけて
例の店に行った。
黒尾さんとの待ち合わせの少し前に。
…良かった。黒尾さん、まだ来てない。
待つ間に、東京ではあまり目にしない、
おいしくて、だけど高価ではない焼酎の
5合瓶を1本買う。
気取らない方がいいからラッピングはせず、
でも、
電車で運ぶときに危なくない程度の包装で
持ちやすい袋に入れてもらって。
…今日は頬っぺたに指を刺されないよう、
出入り口を気にして待っていると、
間もなく…ほぼ時間通りに…
黒尾さんがやってきた。
『よぉ。いっそがし~いのに
わざわざ来させて、わりぃな。』
『いえ、こちらこそ、
まさか電話が繋がってるなんて知らず、
とんでもなく失礼な口利きを…
すみませんでした。』
この間の夜のことは、
お互いに口にしない。
二人で、
監督用の焼酎の出来上がりを確認し、
こちらはきちんと、
中が見えるラッピングにしてもらい、
持ち帰るときの箱の蓋と風呂敷も
ちゃんと揃えて確認して。
支払いや領収書の受け渡しは
黒尾さんにしてもらって。
…全部、終わる。
ギフトを抱えた黒尾さんと、店の外へ。
『どうする?会社に戻んの?
それともこのまま飯でも食いに行くか?』
…やっぱり、黒尾さんは誘ってくれた。
だから私は、私の準備した言葉を。
『会社に戻ります。
だから私、それ、持って帰りますよ。
私か夜久君のロッカーで預かります。』
半ば無理矢理、その包みを奪い取る。
『え?いいよ、重いぞ?』
『いえ、そのかわり、これを…』
さっき買った焼酎を、
黒尾さんの手に押し付けた。
『…俺に?』
『いいえ、黒尾さんじゃなくて(笑)
あのおでん屋の大将に
渡していただきたいんです。
この間の、迷惑かけたお詫びに。』
『…なら、自分で、持ってけよ。』
『いえ、しばらく忙しいから
なかなか行けないと思うんです。
こういうの、タイミングが大事なので。
黒尾さん、
お手数かけて申し訳ないですけど、
お願いできませんか?』
『…わかった。』
『言っときますけど、
黒尾さん向きの味じゃないですから。
こっそり飲んでも、
きっとガッカリしますよ。
これは、大将向けのチョイスです。』
『俺、信用ねぇなぁ(笑)』
笑顔…よかった。
今日、一番大事な言葉を、言わなくちゃ。
『黒尾さん、』
