第27章 ウェディングプランナー
その言葉について深く考える間もなく、
彼女が言う。
『あぁ、お腹すいた!
ご飯、食べに行きましょ。
…黒尾さん、ご馳走してくれるって
おっしゃいましたよね?』
そうだ。
考えるのは、あとで。
考えるのは、一人の時間で。
今夜の俺は、忙しいんだ。
…なんたって、
上司の帰国祝いを欠席したんだから。
自分にそう言い聞かせた。
『あぁ。
俺が知らないようなウマイもん、教えてくれよ。』
『うー、悩むぅ…とりあえず、ここ、出ましょ。』
扉を押し、階段をのぼる。
店にいた一時間ほどの間に
外はすっかり夜の町。
さっきまでとは
行き交う人の種類が違う。
…まるで映画のワンシーンのようだ。
銀色の星屑の街に、
人が、波のようにながれる。
男同士、女同士、カップル、
会社や学校の仲間同士、
同伴めいた夜の蝶と男…
みんな、誰かと。
みんな、楽しそうに。
みんな、キラキラと。
ここは、そういう街だ。
…来たときは一人だった。
言っておくけど、
俺は、一人は嫌いじゃない。
それでも、
誰かに側にいてほしいこともある。
親しい人じゃなくていい。
いや、むしろ今は、
親しくない人の方がいい。
タイミングと
フィーリングさえあえば。
恋愛関係でも
仕事関係でも
バレー仲間でも
一夜の相手でもない、
…なんだろう。
敢えて言うなら
大人になって出来たトモダチ。
(向こうがどう思ってるかはともかく。)
そんな相手と歩いている自分が
不思議だった。
何かが始まる、とか
そんな、光輝くもんじゃない。
…眩しくないから居心地がいい、
と言ったら、
失礼だろうし
殴られそうな気がするのだけれど(笑)
きらめく街だからこそ目立つ、
影の安心感。
眩しくないからこそよく見える
自分の、相手のホントの顔。
そんなことを思ったのは、初めてだ。
輝かない俺たちは、
光の間を
寄り添うことも
足並みを揃えることもなく
自分の速度で歩く。
悪く、ない。
光には影がつきものだ。
だから
こんな俺たちにも
どこか、居場所があるはず。
俺よりよっぽど
自分の守り方を知ってるんだろうな、
…良くも悪くも。
"ついてこれないなら置いていくよ。"
そう言うかのように
振り返ることなく先を歩く彼女の
迷いない背中を見ながら、
そう思った。