第33章 おやすみなさい【甘裏】*レオ*
公務で隣国へ赴いていたけれど、思いの外遅くまでかかってしまって、お城に戻った頃にはすっかり夜も更けていた。
湯浴みを済ませて、部屋へ戻る途中、ふと思いを巡らせた。
「最近レオとゆっくり会えてないな…。」
プリンセスとして、宮廷官僚として、お互い公務に追われていて、姿を見かけることはあっても、挨拶程度しか言葉を交わせていなかった。
もしかしたら、と踵を返して、レオの執務室へと足を向けた。
部屋の扉が視界に入ると、隙間から光が溢れていた。
時間のこともあり、周りを気にしつつ小さく扉を叩くと、足音がゆっくり近付いてきた。
「…ちゃん!どうしたの?こんな時間に…。」
扉が開かれると、レオは私を見て目を丸くした。
「…最近レオと一緒にいられなかったから。もしかしてまだ起きているかなと思って見に来たの。」
素直に気持ちを伝えると、レオはふっと紅い瞳を細めて、私の手を取った。
「…おいで。」
手を引かれて私はレオの執務室へと足を踏み入れた。
机の上には分厚い本が何冊も積まれていて、書類もたくさん広げられていた。
「…ごめんなさい!まだお仕事中だったんだ…。」
「もうそろそろキリをつけようと思ってたから大丈夫だよ。それに…」
言葉を続ける前に、レオは私の頭を引き寄せて額に口付けを落とした。
「可愛い恋人が夜更けに会いに来てくれたのに、仕事を理由に帰すなんて俺には出来ないからね。」
優しい言葉についつい頬を緩めていると、視線が重なり、どちらともなく唇を寄せて、重ね合わせた。
唇が離れて目を開けると、すぐ目の前にはレオの端正な顔が広がった。
だけど、目の下にはうっすらと隈が出来ていて、近頃の忙しさが形として表れていた。
「レオ…あんまり眠れてないんでしょ?隈が…。」
「あぁ、これね。元々あまり寝なくても大丈夫だから、ちょっと遅くまでやりすぎただけだよ。」
「じゃあ…私今日は戻るね。ちゃんと休んでね。」
後ろ手にドアノブに手をかけて扉を開こうとすると、手首が掴まれ制された。
「じゃあ俺も一緒に戻ろうかな。」
レオの笑顔に目を奪われている間に、体がふわりと横抱きにされて、そのまま私の部屋へと送り届けられた。