第3章 近くて遠い恋【山崎視点】
しばらくあんぱん片手に二人して空を眺めた
特に何かを話すわけでもなく、ただぼんやりと空を眺める彼女の横顔はどこか悲しげで寂しそうに見えた
『?なんですか』
「えっ!」
見過ぎたのか、俺の視線に気づいた結衣ちゃんが急にこちらを振り向いたので思わず変な声を出してしまった
そんな俺を見て笑う彼女につられて俺も笑う
それはとても刀を握るような子には見えない、綺麗な笑顔だった
やっぱり結衣ちゃんは普通の女の子なんだなと思う
だから俺はたまに彼女に疑問に思うことがあるんだ。
「沖田隊長扱うの結構大変でしょ?」
『え、まー原田隊長の時よりかは大分しんどいですね』
そう言って苦笑いする結衣ちゃんを見つめた
『でも、沖田隊長はきっとわかってくれてると思うんです…私の気持ちも』
「…そうだね」
結衣ちゃんは強い
それは剣の腕だとかそういうのじゃなくてきっと俺たち真選組の中で誰よりも強い心を持っているんだと思う
ふと彼女の首に掛かる小さな瓶に目を向けた
「綺麗だね、それ」
小さな星が入った砂の瓶
『私の宝物です…』
そう言って微笑み彼女はそれをぎゅっと握りしめた
結衣ちゃんが初めて真選組に来たのは3年前
当時彼女を連れて来たのはうちの隊士平河隊長だった
連れて来た理由が"襲われていたから助けた、隊士にしてほしい"なんて…突拍子もない発言にもちろん最初は局長たちも戸惑っていた
だけど平河隊長は局長や副長に頭を下げ必死になって頼んでいた
"かわりに自分を斬っても構わないから"と。
そこまで言われさすがに局長も副長もそれ以上反対は出来なかった
それに平河隊長は他の隊士たちより一際剣術に優れていて、そんな彼に真選組から居なくなられるほうが俺たちにとっての支障は大きかった
「仕方ねェ、オイ平河。そいつァお前が責任を持って世話しろ」
「ありがとうございます副長」
「それからお前…」
『ッ!は、い?』
「…お前は本気で隊士になる覚悟があるのか?」
当時15歳だった結衣ちゃんにとってそれはとても厳しい選択だった
でも
『私は…強くなります!この真選組で』
結衣ちゃんの目はとても真剣だった