第29章 お姉様?お姫様?____彼女だよ 朱桜司
「………朱桜と申す者ですが」
ドスの聞いた声でいうものだから、朱桜と言った瞬間に電話の向こうから『ヒッ』と短い悲鳴が聞こえてきた。
「つ、司くん…いったい何を」
スマホを取り返そうとするが華麗に避けられた。
「これ以上あんずさんに付きまとえば、朱桜家があなた方をつぶしに参ります。お引き取りを。」
『……し、失礼しましたっ!』
………本当にやってしまったよこの子。
相手側はあっさりと引き下がったし……。
「……これで良いですね」
どこか拗ねたようにスマホを差し出してくる。それを受け取り、何て声をかけようかと伏見くんに視線で助けを求めた。
「良かったのでございましょう。これぞ正しく騎士です。そう思われませんか?」
上手い具合に話を振ってくれた。心の中で感謝し、私はそれに答えた。
「うん、本当に困ってたから。ありがたいよ。」
司くんは頰を膨らませながら、本当に?と言いたげに顔を上げた。
「本当の本当だよ。ありがとう。」
それでもまだ拗ねているのでどうしよう、と困っていたら伏見くんが耳打ちしてきた。
「司様が一番好きだと言ってみてください。」
「え?」
「違うのですか?」
意地悪にそう言ってくるのでブンブン首を横に振る。彼は微笑んで私の背中を押した。
「つ、司くん」
「………お姉様ぁ…司は、司は………馬鹿のように思われても、それでもお姉様が一番…」
「分かってるよ」
私はギュッと彼の手を握った。
「私も、司くんが一番だもん。一番好きだよ。」
「ッお姉様!!」
司くんがパアァッと顔を輝かせて、やっと拗ねたのがなおったようだ。
伏見くんにやった、と笑いかけると彼はニッコリ笑っていた。
「そろそろ、ご退出なさってください。」
「え、そんなこと言わないで…」
と言いかけたが、彼の後ろで仁王立ちしている蓮巳先輩を見て納得した。こりゃやばい。
「じゃ、待ってるから部活頑張れ!」
「はい!」
先輩が何か言う前にサッと外へ出た。そこにはイズミンがいて、微笑んでいた。
話したいことがたくさんある。あとお礼も言いたい。
私は、話すために息を吸い込んだ。