第57章 先入観で物事を判断すると、ろくな事がない。
桂から痛烈な一言を浴びせられ、葵咲の心は砕けていた。半ば放心状態といった様子で歌舞伎寺を後にする。ぼんやりと考え事をするようにとぼとぼ歩いていた。そんな葵咲の様子を山崎は少し離れた位置から見守る。声を掛けるに掛けられないこの状況をもどかしく思う。ただただ心配そうな視線を送る事しか出来なかった。
そんな時、ゆっくりと歩を進める葵咲に近付く影があった。
「葵咲?」
葵咲「!」
声を掛けられて背筋を強張らせる葵咲。聞き覚えのある声に一筋の汗を垂らしながら、慌てて振り返った。
葵咲「そっ、総悟君!?」
声をかけたのは総悟だった。総悟は土方と山崎が葵咲の身辺調査している事を知らない。決して悪気があって声を掛けたわけではないのだが、何とも間の悪い事。山崎は内心冷や汗を垂らした。そして葵咲もまた焦った様子で言葉を返す。
葵咲「こ、こんなところで何してるの?」
総悟「俺ァここら一体に謀反者がいるって通報聞いたんで。その“獣狩り”でさぁ。」
葵咲「!」
総悟「葵咲こそ、こんなところで何してんですかぃ?」
ギクリ。
その質問が来る事を想像はしていたが、答えをまだ用意していなかった。人気のない廃寺近くの小道。買出しというにも用事というのも無理があるし、胡散臭い。葵咲は適当な言葉で誤魔化そうとした。
葵咲「ちょ、ちょっと散歩!」
総悟「! へぇ~。」
葵咲「な、なに?」
葵咲の返答を聞いた総悟はニヤリと黒い笑みを浮かべる。その表情を見て葵咲の鼓動は激しくなった。一度は総悟と目を合わせたものの、咄嗟に視線を逸らしてしまう。そんな葵咲の様子を見て総悟はニヤニヤしながら葵咲の顔を覗き込んだ。