第13章 【縁下兄妹、東京へ行く】中編
何だかんだありつつも日は流れ、烏野の面々が東京へ出発する当日になった。
ゲストという事でまさかの招待—というより強制的な呼びつけ—を受けた縁下美沙は装備をきっちりしている。
髪には力からもらったリボンを綺麗に結わえていた。
片方の手首には力からもらったブレスレット、それも一度手首から抜ける事がわかって力が買い直した方をつけていた。
肩から下げているガジェットケースはいつもの布製ではなく外出用の合皮製の奴だ。
他校との交流会という事で着ているものこそ制服だがとにかく力は気合い入ってるなと思う。
「気合い入ってるな、美沙。」
思わず微笑んで口にすると義妹はや、そのと顔を赤くする。
「遠く行くし他校の知らん人に会う訳やしホンマやったら関係ないのに招待受けたしやから緊張してもて。」
なるほどと力は苦笑した。
「田中や西谷みたいにわざわざ威嚇したりしなけりゃ何もないよ。」
「田中先輩らはまた話別ちゃうの。」
「まあな。」
力はまた苦笑してふと呟く。
「心配するとすればお前がまた色物に気に入られる事かな。」
「出た。兄さん最近そればっかり。」
「直近で顔も知らない奴に電話口で気に入られてSNSにメッセージもらったのはどこの誰だ。」
「宮さんはすぐ飽きてどっか行きはると思うけど。」
「わからないだろ。」
言いながら力はつい不機嫌になる。義妹のこだわらないのはいいがどうかすると無自覚な所はいつも困りものだ。
「兄さん、」
美沙が言った。
「そない(そう)言うって事はつまり現地には色物枠がようけ(たくさん)いてはるって事。」
「ようけかどうかはともかく色物はいるな。」
「えらいこっちゃ、木下先輩と成田先輩に兄さんの事よう頼んどかんと(頼まないと)。」
「どういう意味だよ。」
「別に。」
「うん、行く前にちょっとそこ座ろうか。」
「かんにんしてーっ。」
そろそろ阿呆な事をやっている場合ではない。
「行こうか。」
「あい。」
多少は解れたようだがそれでも美沙は緊張で子音がぶっ飛んだ返事をした。