第66章 【烏と狐といろいろの話 その7】
一方で残された野郎共である。
「ままコ、大丈夫なのか。」
ボソリと呟くのは京谷賢太郎、荒々しい見た目とは裏腹にひょんなことからハンドルネームままコの隠れファンみたいになっている彼は言い方こそ愛想がないものの、結構心配している雰囲気を醸(かも)している。
「いろんな意味で心配だよな。」
同級生の矢巾秀も同意する。
「縁下君のシスコンが相変わらずどころか悪化してる感あったし。てか」
ここで矢巾は周囲に目をやった。
「案の定勢ぞろいだな。烏野は当然、伊達工もいるし、東京の連中も来てるじゃん。音駒と梟谷。」
「ちょっと待って、それどころじゃなくないか。一番向こうにいるの、縁下君と稲荷崎の宮兄弟、おまけに主将も。」
気がついてしまい慌てる渡に矢巾はゲッと呟き、本能的に先輩方のほうを振り返るともう遅かったらしい。
「あっ、やっぱり飛雄も烏野のみんなもいるし、音駒もいたっ。てか稲荷崎もいるじゃん、ちょっと行ってくるね。」
「こんのクソバカ野郎っ、ややこしくなるからやめろっ、止まれっ。」
「おーおー、ままコの奴とうとうやったかあ。」
「修学旅行の件があるから宮兄弟引き寄せるのはまあ予想の範疇(はんちゅう)として、なんで主将まで来てんだろ。」
「花巻さん、松川さんもまったりしてる場合じゃないっス、及川さん達止めないとっ。」
「無駄だって、金田一。」
「国見も即投げ出すなよっ。矢巾さんっ、どうしたらっ。」
「悪い、金田一。俺も気づくの遅かったからマジでもう無理だ。」
矢巾はため息混じりに後輩に告げ、告げられた金田一勇太郎はがっくりし、縁下美沙きっかけで発生したこの状況は既に混沌が過ぎて、どう説明したものかわかる者など居そうにないのだが
「キタキタキターッ。」
これまた非常にひょうきんな調子の声が響いた。
「ほらー、やっぱり面白そうなことになってんじゃん。さっすが俺、冴えてるーっ。」
「呑気(のんき)かこのやろっ、寧ろ冴えてほしくなかった説あるっつのっ。」
その場にいた連中総勢44名の殆どが、白鳥沢学園高校バレーボール部の天童覚と瀬見英太の声を認識してうわあ、やっぱり来た、という雰囲気を醸し出した。
例外は面白がっている宮兄弟と菅原孝支、とりあえず静観を決め込んだ手白球彦、あとはほんまに来たか、という程度で収まっている北信介くらいか。