第65章 【烏と狐といろいろの話 その6】
「あ、福永さん、お久しゅう。」
美沙も気づき、福永もよっ、と言いたげに片手を上げる。
義兄の力も挨拶だけしてそれ以上は何も言わない。
「ときに福永さん、さっきのネタはどっかのオンライン漫画でありましたよ。」
美沙が話を進めると福永はガーンッという反応をする。
「美沙さん、何気に厳しい。」
「いや、単純に鉄板ネタなんかも。」
呟く美沙に福永は突如目を輝かせた。天啓のような何かが降りてきたらしい。
「印刷は。」
「福永さん、それ活版(かっぱん)。」
「船のデッキ。」
「それ甲板(かんぱん)。」
「非常食。」
「それ乾パン。かじりにくいですよね、私嫌いやないけど。」
「ウサギ。」
「それラパンって、フランス語かっ。しかもオスのうさちゃん。」
「生ベーコン。」
「それパンチェッタ、ってイタリア語に戻っとうしっ。」
「無理有りすぎやろっ、ままコちゃんもなんで全部対応出来んねんっ(出来るの)。」
美沙と福永の間では以前にもあったやり取りだが、稲荷崎勢からしたら唐突過ぎる流れにとうとう宮侑が全力で突っ込んだ。
しかも当の美沙と福永は何も考えておらず首を傾げている。
「まま兄くん、あれはええん。」
ゼエゼエ言いながら尋ねる侑に縁下力は、ああ、まあとしれっと答えた。
「前にもあった流れだし、別に福永君は害がないから。」
「いや、害ないにしたって今俺が消耗したんやけど。」
「ツムはちっとくらい消耗しといたほうがええやろ、やかましいし。」
「なんか言うたか、クソサム。」
「美沙には宮君達を他山の石としてほしいところだな、すぐ喧嘩しないように。」
「また教材にされた、ツムのせいやぞ。」
「この際お前も一緒やろ。ほれ、北さんも頷(うなづ)いとる。」