第12章 【縁下兄妹、東京へ行く】前編
東京の梟谷学園高校2年の赤葦京治は一度宮城の縁下力・美沙の義兄妹の所へやってきたことがある訳だが(詳細はエンノシタイモウト第二部第30章から35章を参照されたい)、その後逆に兄妹が東京へ行ったという事があった。正確には烏野高校男子排球部の連中も一緒にだったがどの道縁下美沙が含まれていた事は事実だ。
事の起こりは烏野高校男子排球部主将、澤村大地の一言だった。
「みんな、面白い事になったぞ。」
唐突に言われた男子排球部の連中は首を傾げた。勿論縁下力もである。
「面白いことって。」
おずおずと尋ねる東峰旭に澤村はニッと笑う。
「音駒の黒尾から東京で集まろうって誘いが来た。梟谷も一緒だ。」
何ぃぃぃぃぃっと野郎共の大半がどよめき、マネージャー陣もソワソワする。
「でもまた何で。」
菅原孝支が当然の疑問を口にすると澤村はバレー以外で交流したいという話だと答える。
「いーじゃないスかっ、行きましょ行きましょっ。」
ビョインと飛び上がって周囲を見渡すのは西谷夕だ。
「みんな予定空けとけよっ。」
「いつなのかまだ聞いてないだろ。」
縁下力は静かに突っ込んだ。いつもの事とはいえ西谷には困ったものだと思う。澤村がそんな様子を見てハハハと笑い、詳細を聞いてみると言って携帯電話を操作した。電話が振動したあたり程なく返事が来たようだ。澤村はん、と呟き携帯電話の画面を見つめる。途端に彼はあからさまに動揺した様子を見せた。
「だだだ大地、どうした。」
言う東峰はお前が動揺してどうするという話である。そんな東峰に珍しく突込みを入れず澤村はギギギと力の方を見た。顔が青いのは力の見間違いではあるまい。
「縁下、」
まるっきり覚悟を決めたかのような言い方に力は何だか悪い予感がすると思った。
「向こうから美沙さんも一緒にって要請が来た。」
力は一瞬固まった。次の瞬間、
「ええええええええええっ。」
第二体育館に力の叫びがこだました。
「なななな何でうちの美沙がっ。」
動揺が治まっていない力は早口で澤村に尋ねた。
「部外者じゃないですかっ。」
澤村は困ったような笑顔でそれがなぁと言う。