第64章 【烏と狐といろいろの話 その5】
「いえいえっ、お、お気になさらずっ。」
谷地が両手をブンブン振りながら上ずった声で叫ぶ。
ただでさえ動揺しやすい彼女だが、縁下美沙のおかげで更にとばっちりが多いのが気の毒だ。
「そ、そーですっ、大丈夫くありますっ。」
日向もビビって日本語が崩壊している。
「い、一応事態は収拾されたというかなんというか。」
山口は落ち着こうとするも微妙に失敗している。
「ま、ままコはいつものことなんで。」
影山ですら頑張ってフォローしようとしている。
「何みんな遠慮してるの、いい機会デショ。」
やはりというか、ここで臆さないのは月島である。
「全くです。お陰で僕までままコさんに呼びつけられました。プライド捨ててまで行動したのと、その後ちゃんと損害賠償も取れたんでままコさんにはそれ以上責任問いませんが、後輩方の指導がなってないのでは。」
「ちょちょちょっ。」
「こらっ、月島っ。」
当事者である美沙と見かねた澤村が声を上げるが、今回については月島は主将の声も敢えて無視した。
一方で北は怒らない。
「反論のしようがないな。俺のいたらなさに尽きる。」
ここで当事者の双子が同時にうっと唸った。主将が自分たちの為に直接頭を下げた上に、自分達よりも年下に指摘を食らっていることに胸が痛んだらしい。
「すみませんでしたあああああっ。ままコちゃんも改めてごめんなさいっ。」
えらい勢いの謝罪が入った。
「いや、もう私はええから。」
なんとかそう言いつつも美沙は月島が密かにふ、と笑っているのを見逃さなかった。
あいつ絶対私利用して溜飲(りゅういん)下げよったな、と思う。
思わず義兄に目をやるとこちらも察していたのか、黙って苦笑していた。