第63章 【烏と狐といろいろの話 その4】
「二口、ちょっとうるさすぎ。もうちょっと落ち着きなさいよ。」
「うるせえ滑津、それは黄金に言え。」
「何度もすんません、どうしても慣れなくってっ。」
「なんか入るとこ間違ったかもしれませんね。」
「作並が気にすることないんじゃないかな、二口だし。」
「茂庭さん、どーゆー意味スか。」
同じやり取りが聞こえているのか、腕の中の美沙がプルプルしている。
向こうはやはり知った顔なのだろう。
と、まあまあ状況は緊迫しているのだが、侑はままコちゃん抱っこ出来たラッキーなどと呑気なことも考えている。
もしまま兄こと縁下力にバレたとしてもこれは緊急事態という言い訳で通るだろう。
何せあの義兄は義妹の安全を優先するのだから。
ということで、これはままコちゃんの安全、と脳内言い訳をしながら美沙を抱えた侑はそそそ、と他の客やスタッフの邪魔にならなさそうな壁際に移動する。
美沙は存外大人しくしていたが、呼吸が早い。
「ごめん、抱っこ苦しいか。」
囁くとままコこと縁下美沙は無言で首を横にふる。
これも後で語られたことだが、義兄以外にそれも思うよりも長く抱っこされてしまったので落ち着けなかったのである。
が、前方の連中にバレてはいけない一心で具体的な説明が出来なかったらしい。
「けど堪忍な、俺まま兄くんがどないしてるかわからんし。」
腕の中の美沙が今度は首を縦に振る。
同時にその呼吸のペースが落ちた。落ち着いたというより逆に頑張ったのかもしれない。
「もうちょい我慢やでえ。」
侑の言い方は完全に小さい子向けであるが、実際こいつはおとなしゅう(大人しく)抱っこされてるままコちゃん過去一可愛いと思っている。
やがて前方の連中の姿が完全に見えなくなったところで、侑は美沙を解放した。