第62章 【烏と狐といろいろの話 その3】
そんなのっけから大騒ぎだった昼間を経て、その日の夜のことである。
「あー、おもろかった。」
縁下力の自室、宮侑が心底ニコニコして床に敷かれた布団に潜り込む。
力は寝にくいだろうからと自分のベッドを譲ろうとしたのだが、侑が大丈夫大丈夫とそのまま押し切ったのである。
「ままコちゃんはもちろんやけど、飛雄くんまで入ってめっちゃおもろかった。」
「俺は予想以上に神経が磨り減る思いをしたんだけど。」
「待って、磨り減るんは予想の範疇(はんちゅう)やったん。」
「相手が君達兄弟だろ、京都での件があるとどうしてもね。」
「ホンマ、のんびりした顔して言うてくれるやん。」
「そいつはどうも。」
ベッドに仰向けで力は苦笑した。
ものすごく変な感じだった。
以前に東京・梟谷学園高校の赤葦京治が泊まりがけで来た時もなかなかのものだったが、今度はそれこそ高校バレーボール界のスーパー双子の片割れが自室に泊まっている。
冷静に考えたら、俺今人生でまあまあすごいイベント起きてないかと思った。
というより、義妹が縁下家に来てからスマホゲーム並みにイベントが多い気すらする。
「しっかしホンマまま兄くんはままコちゃん大好きやなあ。初日からまるわかり。」
「せっかくうちの子になったんだから嫌いでいるよりいいだろ。」
「そらそうやけど。」
「俺としては美沙が君らに好かれたことが驚きだよ。俺にとっては大事な子だけど、他所の人にはなかなか。」
「その割にはファンがあっちゃこっちゃおるらし(らしい)やん。」
「関西にまで及ぶなんて思うかよ。」
力はため息をついて侑に背を向ける。
向けた瞬間にクスクスと笑われ、思わず向き直る。