第43章 【王者の命】その3
当の美沙はそんな事を勿論知らないし、向こうの方で義兄の力及び烏野の連中がわあああああっと慌てふためいているのも、白鳥沢の部員達の多くが何て事をと動揺しているのも見えていない。
「もうままコちゃん最高ーっ、期待はずさねーっ。」
「馬鹿やろ天童っ、笑い事じゃねーっ。」
なおも腹を抱えて笑う天童に瀬見がすかさず突っ込み、大平他レギュラーの連中や部員達も監督が目の前にいるのにと殆どがガクガクブルブル状態である。
「あの捨て子の薬丸。」
白布もややこしい事しやがってと言いたげに呟く。
「え、賢二郎、これやばくない。」
川西も引いていて、白布は黙って眉根を寄せている。言うまでもないだろと言ったところだ。
「いやふつーにやばいですって、監督がキレるっ。」
五色もカタカタ震えながら言ったが幸いその心配はなかった。
「くおらぁっ、縁下妹っ。」
鷲匠よりも先に烏野の方から烏養の怒鳴り声が響いた。一瞬で体育館はシィンとなる。
直後にはドドドと足音がして烏養と武田と美沙の義兄、力がやってきていた。
「すみません牛島さんっ、うちの美沙がっ。」
力は即義妹のところへきて、当人を羽交い締めにして牛島から引き離す。引き離された美沙の方も我に返ったらしい。
「美沙っ、お前もっ。」
「ああああ、やってもたっ。すみませんっ。」
「問題ない。ただ俺は天然じゃない。」
「えーと、やはりそこを強調されますか。」
「それより妹の方はこの後の仕事をしっかり頼む。」
「はいっ。」
一方で烏養と武田は斉藤と鷲匠に謝りまくっている。
「すみませんすみませんっ。」
「早速うちの生徒が本当に申し訳ありませんっ。」
「いえいえ、武田先生も烏養コーチもそんな。ねぇ、鷲匠先生。」
困ったように笑う斉藤に振られて鷲匠はんーと低く唸るように言った。
「あの小娘が最終仕事をきっちりするならそれでいい。ただそうじゃなかったら承知しねぇ。」
武田と烏養は一瞬キョトンとしたが
「それでしたら大丈夫です。」
すぐに武田がうけあい、烏養が頷いた。
そしてこのような謎のゴタゴタを引き起こしてしまった挙げ句、やっと縁下美沙は依頼をまともに始めることとなる。
次章へ続く