第43章 【王者の命】その3
大丈夫やと思いたい、と美沙は思う。
青葉城西の場合は動画投稿者ままコのファンを自称する及川が主将の癖に率先して騒ぎ立てるからややこしくなるのであって、白鳥沢の場合は五色にいきなり電脳呼ばわりさえされなければ大丈夫なはずだ。
もっとも、いつも電脳呼ばわりされて毎度反射的に脳筋と言い返してしまう美沙も問題なのだが。
大丈夫なはずや、なんぼウシワカさんが天然言うたかてめっちゃ厳しい監督さんがおる所ではボケへんやろし、五色君や天童さんかてわきまえるやろし、そもそもあそこには白布さんとか瀬見さんとか突っ込み要員もいてはるんやし。
そう考えている間にも斉藤の運転する車は進み、窓から見慣れた景色がどんどん流れ去っていく。
そっと義兄の方を見るといつもどおり微笑んではいるように見えて口の端が少しピクピクしている。
いよいよだった。
一方、白鳥沢学園高校の体育館である。
「縁下と先生達遅くね。」
木下が呟いている。
「バスで来た時間考えたらこんなもんだとは思う。途中でトラブルがなきゃいいけどな。」
成田が静かに言う。
「後は来た瞬間のバトルだな。」
口を挟むのは田中、腕を組んでうーんと唸っている。
「美沙はすぐ乗るからな。」
西谷に言われてはどうしようもない。
「流石に向こうの監督もいる前でそれはない、と思う。」
「成田も断言できない件。」
「無理もねぇ木下、何たって縁下妹だ。」
「てかよ、翔陽も大概他校に縁があるけど美沙も必ず誰か1人と揉めてねぇか。」
「あっちの五色、伊達工の二口、後は」
烏野の2年生達がコソコソとそんな話をして澤村が注意しようと口を開いた所で体育館の扉がガラガラと開く。
そして、
「失礼しまっす。」
若干上ずっているが妙に通る声、墨痕鮮やかな"電脳少女"の文字のTシャツ、いつものガジェットケースの代わりにウエストポーチを装備、縁下美沙その人が登場した。