第40章 【トラブルドゥトラベリング】その6
「うう、しゃあないな。」
「やったーっ。」
揃ってはしゃぎ小躍りする宮兄弟に美沙はとうとう何かがキレた。
途端にバフッという音が響く。
「ひぃぃぃっ、美沙さんっ。」
谷地が震え上がった。
「こうして美沙はまた伝説を作ったのであった。」
日向が謎の語り口調になった。
「ま、ままコがおかしくなった。」
影山は顔を青くしてカクカク震えていた。
「ツツツツッキー、美沙さんやっちゃったっ。」
山口も顔が青かった。
「ま、どっかでこうなると思ってたよ。」
月島はやはり冷静だった。
そして、宮兄弟に枕を投げつけるという偉業をなした縁下美沙は腕組みをして仁王立ち、あっけに取られる宮兄弟を見上げている。
「踊らんでええから。」
それだけでも大概なのに更に信じられない事に
「はい。」
宮兄弟は大人しく頷いていた。角名は驚き、銀島が顎が外れんばかりにぽかーんとし、小作がえええと叫んだのは言うまでもない。
就寝前、生徒達の多くは部屋でわいわいしている時間帯、烏野・稲荷崎両校でたまたま部屋の外にいた連中は異常事態を目撃した。
烏野の1年と宮兄弟含む稲荷崎の2年が一緒にぞろぞろ歩いている。進行方向と漏れ聞こえる会話からしてロビーにでも向かうのだろうか。
それだけでもたいがいなのだが烏野の生徒からすると更に信じられないのが、その中にうつむきながら歩く1年5組の縁下美沙がいることである。
縁下美沙の姿を視認した瞬間、烏野の生徒達は男女問わずひそひそ言い合っていた。
何だあれ、あれ男バレだ知ってる他校がいたんじゃね、ちょっと待って縁下さんもいるわよ、だったらあれじゃん、あー"また縁下"だ、今度は何したんだろねー、と例によって好き放題だ。
ほぼ全部聞き取っている縁下美沙がやっかましーっと怒鳴りたい気持ちを抑えていることなどもちろんわかるはずもない。
稲荷崎の生徒達も勿論黙っていない。
おい男バレどないした何か引き連れとるぞ、双子が何かしたか、えー後ろにおる子何なん侑がめっちゃニコニコ見てるやん、あの眼鏡男子ヤバイめっちゃ美形っ、角名がげんなりしとるぞ、一緒におるの東北の学校らしいで、何がどないなってんねん、とまぁこちらも言いたい放題だ。