第39章 【トラブルドゥトラベリング】その5
「美沙ちゃんからだっ。」
たちまちのうちに縁下力は反応し、ビュンッと風切り音が聞こえそうな勢いで及川の所へ飛んでいき心配した木下と成田もついていく。
「ちょっと何これかっわいいーっ。」
人様のスマホを覗き込む力の目は及川が立ち上げたメッセージアプリの画面に着物姿の義妹と谷地、そして自分の後輩達と宮兄弟筆頭に稲荷崎高校の2年生達が集まっている集合写真を捉えていた。
「ヤバイ、美沙ちゃんが着物とか激レアじゃん。」
一方の及川はそんな事もお構いなしにはしゃいでいる。スマホに頬ずりするしぐさまでするので事情を知らなかったら正直危ない図だ。既に岩泉が怒りでプルプル震え始め、金田一が抑えてくださいと必死に止めているのにも気が付かない。
「あの馬鹿っ。」
義兄の力は頭を抱えた。おそらくこの写真、当の義妹は自分に送るつもりだったのだろう。
だがしかしよりにもよって及川に誤送信しなくてもよいではないか。
「やっちまったなぁ、美沙さん。」
「やっぱり持ってんなぁ。」
成田と木下も苦笑している間に及川のスマホの画面に変化があった。
義妹からテキストメッセージが入ったのである。
"すみません誤爆しました!消しときます!!"
しかしこれを見ていた及川はフフフンと笑っている。
「残念、もうダウンロードしちゃってるもんね。」
言いながら及川が口に出したほぼ原文ママを美沙にメッセージで送るのを見て力は思わず及川の肩に手をおいた。
「消していただけませんか。」
澤村に匹敵するかもしれない威圧的な笑顔で言う力、及川の肩に置いた手は無意識のうちに若干力がこもっている。
木下と成田が流石にやめろ縁下とその手を引っ張るが動かすつもりがない。
「えー何でぇ。」
勿論及川も力の要求に応えない。
「浴衣すら嫌いの美沙ちゃんが着物着てしかも超可愛いんだよ、こんなん永久保存版に決まってんじゃん。」
スマホをまるで抱きかかえるかのように持って言う及川、その間にも彼のスマホは振動しまくる。
"あかんて消してー!"
"嫌♪"
"♪つけるな消せー!"
"いいじゃん似合ってて超可愛いよ☆"
"褒めてくれるんはええけど消して!!!!"
"い・や(*^^*)"