第35章 【トラブルドゥトラベリング】その1
「そうだぞ縁下、妹を悲しませるなんてお前らしくない。」
「そうそう、箱入り娘を箱ごと受け継ぐつってもさ限度ってもんがあんぞー。」
「スガ、何か違う話混じってる。あああでも俺もその、美沙ちゃんにも思い出つくりさせてやんないと可哀想過ぎると思う、うん、多分。」
「旭っ、ビビってないではっきり言ってやれはっきりっ。」
「とにかく縁下いい加減美沙さん絡み限定で変な爆弾投げ込むなってっ、こやって実害がでかくなるからっ。」
「そうだっ、いっその事力がついてったらどーだっ。」
「馬鹿西谷っ。」
「何だよ久志離せっ。」
「落ち着けノヤっさん、んな事言ったら今の縁下は実行しかねねぇっ。」
2年も勿論成田を筆頭に落ち着けるわけもなくしっちゃかめっちゃかなメンバー、度々"縁下妹"関係で手を焼かされているコーチの烏養繋心は眉をヒクヒクさせていてそろそろこの馬鹿共と怒鳴りそうな勢い、しかしここで立ち上がったのは顧問の武田一鉄だった。
「縁下君」
普段穏やかな武田の声が妙に響き、本能的に何かを感じた部員達は一瞬でシンとなった。
武田は事の原因である縁下力の肩に片手を置いて微笑んだまま静かに言う。
「心配するのは分かりますが妹さんに学校行事をサボらせるのは許しませんよ。」
武田は終始笑顔だったし物言いはとても落ち着いていたがこの時傍で聞いていた男子排球部の面々は―烏養も含めて―生きた心地がしなかったという。
これには流石の力も落ち着きを取り戻し、大人しく謝って一旦引き下がった。
とはいえ勿論それで話は終わらない。
「皆、頼みがあるんだけど」
練習が終わってからの事である。力は1年生達に向かって言い、早速1年生達は月島以外が何だ何だと体をこわばらせた。
休憩時間の事があったのだ、このタイミングでこの先輩が頼み事と言えば一つしかあるまい。
「な、何でしょう。」
恐る恐る聞くのは谷地、心配性がしばしば行き過ぎて混乱に陥る彼女にしてはとても頑張っている。
「修学旅行の間なんだけど」
一方力は笑顔で続ける。
「うちの美沙をちょっかいかける奴から守ってほしいんだ。」