第32章 【強引g his way】その3
力は言って無言の義妹に目をやる。喋ると及川に聞きつけられそうなので黙っているが全身で堪忍してと言っていた。
前を歩く大人達は特に気にしている様子がない。もしかしたら烏養は顔に出していないだけで気にしているかもしれないがその辺りは力でもよくわからなかった。
とにかく菅原、東峰、月島に囲んでもらっている状態で力はおそらく心臓がバクバクであろう義妹の片手をそっと握ってやる。この時ばかりは力も連れてきたのはまずかったかなと思った。
そう考えているうちにとうとう一行は青城の連中が固まっている所に差し掛かる。
「あ。」
青城の側から誰かの声が聞こえ、力は繋いでいる義妹の手に力がこもるのを感じた。
「烏野。」
おそらくこれは青葉城西の副主将、岩泉一の声だ。
何とか及川が義妹に反応しないまま通り過ぎて行きたい所だが、
「美沙ちゃんの気配がするっ。」
案の定駄目だった。主将の及川徹が反応している。岩泉が気色悪いこと抜かすなんな訳ねーだろっと怒鳴っているが及川はまったく聞いていない。
あ、もう駄目だと力が悟った表情をしたその瞬間及川は驚く大人4人を完全無視した挙げ句菅原、東峰、月島の包囲網を突破して美沙に手を伸ばしていた。そして
「ふぎゃああっ。」
きっちり玄関ホールに縁下美沙の叫びが響いた。これでも美沙は頑張って抑えた方だが場所が場所なので声は反響、たちまちのうちに周囲の目が烏野、青城両陣営に向く。
これはまずいと判断したのだろう、烏養がすぐに動いた。
「こらっ縁下妹騒ぐんじゃねぇっ、てか全員とっとと外出るぞそこの野郎共もだ早くしやがれっ。」
そして大人4人は周囲に向かってすみませんでしたと頭を下げまくり暴発寸前の高校生達を引き連れて逃げるように外に出たのであった。
余談だが及川が突撃をかましたこの時木下と成田も力と同じくあ、もう駄目だと悟った顔をしていたという。