第22章 【大人になってもご用心】
「抱っこしてやるからこっちにおいで。」
途端に及川にひっついていた美沙の様子が変わった。顔を上げてにっこりしている。ゴソゴソして細っこい腕を伸ばし、両手を広げて待っている義兄の下へ行こうとしているが全然進まない。あれと首を傾げる義妹だが力はわかっていて顔がヒクヒクしている。
「駄目ーっ。」
この期に及んで及川が抵抗を示していた。
「は。」
無表情になる力に対し及川は言った。
「やだせっかく美沙ちゃん自ら抱きついていたのに離したくないっ。」
「おっしゃってる事がよくわかりませんね。」
「だって縁下君はいつでも美沙ちゃん触れるじゃん、こっちゃ千載一遇のチャンスなんだよっ。」
「及川しゃん離して。」
「やだっ。」
「離してー、お兄ちゃん助けてー。」
バタバタする美沙、絶対離そうとしない及川、無表情の力、ブチギレ寸前の岩泉、そろそろ美沙救出に加勢するかと構える木下と成田、もうどう反応して良いのやらわからなくなる烏野と青城の残りの連中、どうしようもない。
「嫌ー、お兄ちゃんとこ行くー。」
まるっきり幼児のようなノリで言う美沙の声にとうとう岩泉がブチンと来たらしい。瞬間、バキッというものすごい音がした。
「離してやれグズ川っ。」
「いったーいっ。」
岩泉の鉄拳を食らった及川が叫んで一瞬美沙を手放す。当然見逃す力ではない、するりと及川の腕から滑り出した義妹を捕まえる。
「お兄ちゃん。」
やはり甘えたモードで舌っ足らずのまま美沙は言って力の胸に顔を埋(うず)めた。もはや衆人環視状態だろうがなんだろうがどうでもいいと開き直った力はそのまま義妹をよしよしと抱き締めてやる。
「大好きー。」
「知ってるよ。」
美沙はまたふにゃっと笑って義兄にスリスリし始める。月島や国見といった冷静組がジトーっとした目で見ていることにもまったく気がついていない。
「お前、」
力はふと気づいて義妹に呟いた。
「眠いのかい。」
「眠ないもん。」
義妹は言うがただでさえ酔っ払って喋り方が普段よりふにゃふにゃだったのが更にふにゃっとしている。そのまま義妹は力にベタベタと甘え、力もその瞬間だけ完全に人目がある事を忘れて可愛いなあなどと思って撫でてやったりしていた。が、案の定