第19章 【初めてのアルバイト】中編
そうして縁下美沙の初めてのアルバイトが始まる。
放課後勤務先を訪れた美沙はビビりながらも先方に挨拶をしていた。幸い歓迎された。余程困っていたらしい。親切に色々教えてもらい、とにもかくにも初仕事が始まった。
「い、いらっしゃいませー。」
ビビリの人見知りにとって無理矢理笑顔を作るのは大変難しい。だがしかし声が妙に通るのは幸いした。どうもこの店は常連が多いらしい。来た客が美沙を見て店主に新人さんかと尋ねる。
「あ、ひと月だけお世話になる事になりました、不束者(ふつつかもの)ですがよろしくお願いします。」
どうしても消しきれない西の抑揚と15歳にしては妙に固いもの言いは客の笑いを誘った。きっちりどこかの地方から来たのかと聞かれる。
「出身はこの辺なんですが育ててくれた祖母が瀬戸内海辺りの人だったので。」
客は詳細を聞きたがりまだ手すきのタイミングだった為、美沙は例によってさらりと語った。
「私生まれた時にはもう両親がいなかったので。」
亡くなったのかと聞かれて美沙はええまあと濁した。半分本当だが半分は違う。しかし流石の半分ボケもまさか実母は亡くなったが実父には置いて行かれたような形になった事は口にできない。適当にそこは流したところどうにも詮索好きだったらしいその客は更に深く聞いてきて今もお婆さんと暮らしているのかと聞かれた。
「いえ、祖母も最近亡くなりました。今は母のお友達だったご家族に引き取られて暮らしてます。」
苦労しているといった事を言われて美沙はふと笑った。
「や、苦労はしてません。引き取られてから凄く良くしてもらってますから。」
客は安心したように頷き、ところでとやっと買い物を始めた。