第1章 ・事の始まり
夕飯にしても2人はろくに話さない。若利は編入したばかりの義妹に対して学校は馴染めそうかとも聞いたりはしない。そういった概念がなかったのだ。黙々と食してばかりの中、とうとう文緒がおずおずと言った。
「白鳥沢は広い学校ですね。」
「そうか。」
「以前いた所はそうでもなかったので驚きました。」
「そうか。」
「正直教室行くまでに迷いそうでしたが何とかなりましてよかったです。」
「そうか。」
「後、クラスに兄様と同じチームの人がいました。ええと、五色君。」
「そうか。」
これは酷い。おそらく文緒は会話をしようと試みているのに当の若利があまりに鈍感である。
「兄様は大丈夫でしたか。」
「何がだ。」
「クラスの方とかチームの方とかから私の事で何か言われませんでしたか。」
「どういった関係なのかとかどういう娘なのかとかは聞かれたが別に問題はない。」
「そうですか。」
「関係はそのまま答えた。どういう娘なのかは聞かれてもわからんと言っておいた。実際にわからん。特に興味はない。」
若利はまだ暮らし始めたばかりだし極端に世間に迷惑をかけるような奴でなければ別に問題はないしと思っていた訳だがそのニュアンスは文緒にまったく伝わっていない。若利は気づいていなかったが文緒は俯いて密かにしょんぼりとしていた。
それでも牛島若利と牛島文緒になった少女の不器用な生活がこれから始まる。
また長い長い夢になるがしばしお付き合いいただきたい。
次章に続く