第7章 ・若利は怒力する
「でも本当頑張ったな。まさかお前から妹さんの事を知りたいって言ったなんて。」
「ああ、自分でも驚いている。」
若利は思った通りに言った。
「何故か自然に口から出た。」
ここで天童がニヤニヤし、白布に下衆いなぁといった顔を向けられている。
「結構な事じゃねえか、前向きで。」
瀬見が呟いたところで大平がそれでと更に尋ねた。
「結局他には何か話したのか。」
若利は頷いた。
「本の話をした。」
「どんな。」
「内田百閒(うちだひゃっけん)が好きらしい。」
「誰って。」
天童が言うと若利は答える。
「夏目漱石の弟子だったという。」
「文緒ちゃんてなにもん。」
「妹だが。」
「うん、色々ごめん若利君。」
「他には。」
今度は山形が促す。
「西洋の児童文学や児童向けの映像にも興味があるらしい。」
「へー。」
「だからってよ」
瀬見が言う。
「英語で人形アニメの歌歌いながら廊下歩いてんのはどうかと思うぞ、あいついくつだよ。」
若利が僅かに目を見開いて瀬見を見る。瀬見はえ、何だよと逆に目を丸くする。
「まさかお前知らなかったのか。」
思わず沈黙する若利、横では天童がアヒャヒャヒャと腹を抱えて笑う。
「天童よしなさいよ、笑いすぎ。」
「だって、あのっ、かったそーな顔で子供番組の歌歌ってるとかっ、ウケるー。」
「いいぞ妹、もっとやれ。」
「太一はボソッと煽らないの。」
「スンマセン。」
「と思ってないだろ、実際は。」
「まあまあ獅音も賢二郎も堅い事言ってやらないでさー。」
「天童はもう少し考えなさいて、頼むから。」
一方の若利はまさかの事に固まっていた。山形が大丈夫かとその顔を覗き込む。
「まさかとは思うけどびっくりしてんのか。」
「ああ。」
若利は正直に答え、逆に山形がびっくりする。
「家にいる時とは隔たりがある話だったのでな。」
「そう考えると話し相手しろって方向に持って行けたのはえらいな、お前。」
「あのっ」
ここで五色が言った。
「俺が言うのもアレだけど、あいつきっと牛島さんの大好きですっ。」
「好き。」
若利は疑問形で小さく反芻し、五色はブンブンと首を縦に振る。
「だから、きっと話したら色々教えてくれると思いますっ。」
「そういうものか。」
五色は再びブンブンと首を縦に振り、若利はふむと小さく呟いた。
次章に続く