第28章 ・繋がる
何も知らない文緒は今日も若利が帰ってくる頃合いを見計らって玄関で待機していた。先日の件で瀬見とは顔が合わせづらく―瀬見の方は今までどおりだったのだが―1人疲れていたがこの習慣は飛ばせない。待っているといつもどおり帰ってくる若利、しかしただいまと言うその顔はぱっと見わかりにくいが何となく考え込んでいるような感じを受ける。
「兄様、どうかされましたか。」
尋ねると若利はいや、と短く答える。
「大事はない。」
「そうですか。」
兄様が言うならとその時文緒は深くは考えなかった。
ところが実際はそうではない。これまたいつもどおり夕飯を済ませてから若利の部屋に呼ばれた。呼ばれてから義兄の隣に座るのも忘れない。というより隣に来ないと強制的にあのごつい腕で引きずられる時がある。あれをされると足が引きずられて少し痛くなるので文緒としては避(さ)けたいのだ。
「聞きたい事がある。」
隣に座ると早速若利が言った。
「何でしょう。」
「先日つい愛しているなどと言ったが。」
「はい。」
この人は顔に似合わずよくそういう事をさらりと口に出来るなと内心文緒は思う。自分は聞いているだけで顔が熱くなる思いだというのに。
「お前はどう取った。」
急に聞かれて文緒は動揺した。ちょっと待ってほしいものだが真っ直ぐ見つめる義兄の視線からは逃れられない。文緒は迷う、大いに迷う。問いに対する答えはちゃんと持っているのだ。だけど全て伝えていいのかがわからない。
「兄妹として愛していると言われたのだと取りました。」
迷った挙句文緒は半分本当の事を言った。胸が痛い。隠し事をするなと若利には言われているのにまた自分は隠し事をしている。本当に自分は悪い妹だと思った。
「そうか。」
ため息と同時に言う若利の声からは何故か悲しそうな何かを感じた。
「兄様。」
首を傾げる文緒に更に若利はそれと、と続ける。
「瀬見とは何があった。」
うっかりうっと唸ったのは良くなかった。若利の眉間に皺が寄る。ためらっていると義兄は言った。
「少し前にお前を泣かせるようなら横から取ると言われた。」